研究概要 |
1.青森県八甲田山地の4湿原において現在の植生,および,表層(現在)とTo-aテフラ直下(西暦915年)の花粉分析を行なった. 2.その結果,山地湿原縁辺の低木群落起源と考えられるカエデ属,ヤナギ属,モチノキ属,ミズバショウ属の花粉は,散布源から離れると急激に減少することから(局地要素),周辺の低木群落と湿原との境界を精度よく示しうる.また,湿原内の植物起源と考えられるモウセンゴケ属,ユリ科,ワレモコウ属,ミズゴケ属の花粉・胞子も局地要素で,これらが検出された場合,散布源となった植物が1〜2m以内に生育していたと考えられる.これによって湿原の拡大・縮小や湿原植生の歴史的変遷を捉えることができる. 3.同一地域内で近接する湿原でも,To-a降下以降の最近の約1100年間に乾燥化している湿原(黄瀬谷地)と,拡大しつつある湿原(下毛無,矢櫃萢)のあったことが示された.これは山地湿原の植生変遷が,第一義的には大気候の変遷よりも局地的要因に支配されていることを示す. 4.テフラ降下後の時間分解能の高い植生変遷を明らかにするため,厚さ2mm毎の花粉分析を行なった.この厚さが堆積するのに要した時間は4.20年(To-a)から44.42年(To-Cu)と推定された. 5.最大径約1面の軽石を含む厚さ10cm以上の十和田中掫テフラ(To-Cu)の降下は植生に対する影響が大きく,湿性の植生が破壊された後に乾性の草本群落あるいは低木群落が成立し,300年以上存続した.一方,比較的細粒の厚さ約6cmのTo-aや厚さ2.5cmの白頭山苫小牧テフラ(B-Tm)の降下は植生に対する影響が比較的小さく,降下後もカヤツリグサ科が優勢の湿原植生が維持されたが,構成種の多様性は低下し,多様性の回復には数10年以上の時間が必要と考えられた.
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