研究概要 |
光と機械的刺激による葉緑体定位運動について、ホウライシダとヒメツリガネゴケを用いて実験を行い、次の結果を得た。 (1)外液Ca^<2+>濃度およびCa^<2+>輸送阻害剤(La^<3+>,Gd^<3+>)の効果を調べた結果、シダ細胞でもコケ細胞でも機械的刺激による葉緑体定位運動には外液Ca^<2+>イオンの細胞内への流入が必要で重要な役割を果たすのに対し、光による定位運動には必要ではなく、光刺激と機械的刺激で葉緑体運動制御におけるCa^<2+>の役割の違いが明確となった。 (2)コケ細胞にGFP-talin、GFP-tubulin遺伝子を導入し、安定な形質転換体を得た。これを用いて葉緑体光定位運動時の細胞骨格の動態を調べた。細胞内でアクチンフィラメント、微小管はともにダイナミックに変化しており、微小管では動物細胞でよく知られているdynamic instability, threadmillingが観察される。細胞部分照射により光定位運動を誘導すると照射部位に集合した葉緑体には多数の微小管が付着していることがわかる。一方、アクチンフィラメントでは葉緑体が光定位する以前に照射部位の細胞膜直下のアクチンフィラメントの構造が変化し、網目状構造が誘導される。この構造は光照射を停止すると消失し可逆的である。これらの葉緑体の定位運動にともなう細胞骨格構造の変化はこれまで知られていないものであり、光照射部位での葉緑体の保持に役立つと考えられる。これに対し、シダ細胞ではこれらGFP融合遺伝子の導入によってGFPの発現は見られるものの、糸状構造は見られなかった。しかし蛍光ラベルを変えたDsRed-talinを導入することでアクチンフィラメントの観察に成功し、葉緑体定位運動にともなう動態を調べることが可能となった。
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