研究概要 |
海水ウナギの脳室内にアンギオテンシンII(ANG II)、アセチルコリン(ACh)、イソプロテレノール、P物質を投与すると濃度依存的に飲水量が増える。また心房性ナトリウム利尿ペプチド、バソトシン(AVT)、ブラヂキニン、グレリン、フェニレフリンは濃度依存的に飲水を抑御した(Kozaka, Fujii & Ando,2003)。これらの効果は血液中からの効果と同じものであった。(Ando et al.,2000)。飲水行動は脳がコントロールするので、これらの血液因子は脳に直接作用していると考えられる。しかしこれらペプチドが血液脳関門を通過するとは考え難く、血液脳関門のない特殊な脳部位(脳室周囲器官)の存在が予想される。そこでウナギの腹腔内にEvans blue (EB)を注入し、この色素で染まる脳部位を探した。すると間脳のMagnocellular preoptic nucleus (PM)、視床下部のAnterior tuberal nucleus (ATN)、延髄のArea postrema (AP)がEBでそまった。PMはANG II抗体で弱くAVT抗体で強く染まり、APはチロシンハイドロキシラーゼ抗体で強く染まったことから、PMはAVTをAPはカテコールアミン(CA)を神経伝達物質として用いていると考えられる(Mukuda, Matunaga & Ando,投稿中)。ウナギの嚥下は食道括約筋の弛緩であるので、次にこの筋を支配している脳内神経核をEBで逆行性に標識することによって同定した。延髄のGlossopharyngeal-vagal motor complex (GVC)にそのニューロンはあり、コリンアセチルトランスフェラーゼ抗体で染まったことから、食道括約筋はAChによる支配を受けていることが考えられる(Mukuda & Ando,2003)。事実この筋はコリナージックな神経支配を受けており、Achによって収縮する(Kozaka & Ando,2003)。GVCニューロンの活動はCAによって抑えられ、APの神経線維はGVCまで伸びているので、AP-GVCの回路による嚥下が考えられる(Mukuda & Ando,準備中)。また本研究で神経核を同定するのに必須のウナギの脳地図も作成した(Mukuda & Ando,投稿中)。
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