研究概要 |
中国地方に広く分布するバイカイカリソウとトキワイカリソウの2種は,大規模な交雑帯を形成する.この2種間で隔離がどの程度生じているかを明らかにした.開花期による隔離は,トキワイカリソウの方がバイカイカリソウよりも早く咲く傾向が見られるものの,両者の間では開花期の重なりが小さくなく,交雑を妨げるのに十分であるとはいえない程度である.続いて,人工交配によって,異種間および同種間で花粉発芽および花粉管伸張のレベルでの生殖的隔離が見られるかどうかを調べた.花粉の発芽は,同種内でも異種間でも同程度に見られ,この段階での隔離は全く見られない.花粉管伸張は,同種間での方が,異種間よりも良い傾向が見られるが,十分な隔離機構として働いているとはいえない.以上の結果より,バイカイカリソウとトキワイカリソウの2種間における交雑帯は,これら2種間の極めて弱い隔離機構によって生じていると考えられる.また,日本産イカリソウ属の分子系統学的解析を行った.葉緑体DNAの変異からは,バイカイカリソウとトキワイカリソウは異なるクレードに属し,これら2種が2次的な接触を起こして,交雑帯を形成したと考えられる.この2種間以外にもイカリソウ属では交雑帯の形成が見られるが,交雑帯の形成は別の組み合わせの2次的接触によっても起こっていることが明らかとなった.核18S-26SのITSおよびETS領域における変異による系統解析では,変異量が十分でなかったため,種間の系統関係は十分に解析できなかった.イカリソウ属で交雑帯が形成されやすいのは,種分化からの時間が非常に短いため,生殖的隔離が十分に確立されていないためかもしれない.
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