研究概要 |
維管束植物の各植物群の茎頂のTEM観察から,構成細胞の細胞壁の原形質連絡(PD)の数を明らかにし,PD密度とPDネットワークの違いから,茎頂構造の進化を論じた。1個の頂端細胞をもつシダ植物のシダ綱,マツバラン綱,トクサ綱の茎頂では,頂端細胞が最も多いPD数をもち,頂端細胞から下方の細胞へ向かう密度勾配がみられた.これはシダ植物では,細胞分裂時に形成される一次PDだけをもつ事に起因しており,その結果,シダ植物では細胞系譜にしたがったPDネットワークが作られることになる.これに対して,複数の頂端細胞を表層にもつ単層型の裸子植物の茎頂には,外衣・内体構造の複層型茎頂をもつ被子植物と全く同様,少数のPDしかみられず,頂端から下方への密度勾配もみられなかった.これは裸子植物でも被子植物と同様に,接した細胞間に必要に応じて二次PDを作る能力をもつためと推察される.単層型と複層型との茎頂構造の違いはPDネットワークの違いに反映されなかったことになる.以上の結果は,茎と大葉の進化が,シダ植物と裸子・被子植物で別々に起きたとするこれまでの説を支持するものとなった.維管束植物の中で最も原始的と考えられ,小葉をもつシダ植物ヒカゲノカズラ綱のPD密度は,1個の頂端細胞をもつクラマゴケ目と,複数の頂端細胞群をもつヒカゲノカズラ目で大きな違いがみられた.前者では頂端細胞は多数のPDをもつのに対して,後者では頂端細胞群は非常に少ないPDをもち,裸子・被子植物によく似たPD分布を示した.ヒカゲノカズラ目は,シダ植物であるにもかかわらず二次PDを作る能力をもつと考えられ,これは進化史上興味深い事実といえる.また,本研究より,頂端細胞が存在するか否かで,PDネットワークが大きく変化することが示され,頂端細胞の機能解明へむけた今後の研究が期待される.
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