研究概要 |
本研究により,クマ科哺乳類に関し,その四肢ロコモーションと咀嚼運動に関わる機能形態学的適応形質が議論された. ロコモーションからは,樹上性種,地上性種,遊泳種の3パターンが,適応戦略として浮かび上がった.樹上性種と遊泳種は四肢のプロポーションの伸長を見せている.一方で地上性種は短い四肢で鈍重なプロポーションを見せたといえる,この特徴は骨格筋のマクロ形態からも支持された.マレーグマのような植物食種,とりわけジャイアントパンダでは特異な前肢端把握機構に応じて,前腕部の回内・回外を含む複雑な運動機構が成立し,純粋な地上性種とは明らかに異なるロコモーション戦略を要求されていた. 咀嚼装置からは,肉食性種が頭蓋が吻尾方向に伸長し,臼歯列に切断力を備えていることが示された,逆に植物食性種は骨弓を外側へ広げ,断面積の大きな咬筋と広い咬合面をもつ臼歯列によって,硬い植物体を圧迫・破砕する適応を遂げていることが示唆された.咀嚼筋の肉眼的解剖,CTスキャンとMRI断層撮影の結果,肉食適応種では側頭筋が,植物食適応群では咬筋がより発達していることが明らかとなった.この特徴は筋肉の乾燥重量の測定結果とその相対的比較からも支持された. このようにクマ科のロコモーション装置と咀嚼機構は,単系統群内におけるきわめて幅広い適応の結果として理解される.種数はけっして多くない同科だが,運動機構の適応に関しては著しく多様性に富んだグループとして今後も哺乳類進化学の興味深い研究対象となろう.
|