研究概要 |
日本海の深海性魚類相を特徴づけるゲンゲ科,カジカ亜目ならびに板鰓類の形態分類学および分子系統学的調査を進め,かつ同海域の深海(200m以深)に出現する魚種を標本と文献情報から検討した.平成13年度から平成15年度にかけて日本海の大和堆での標本採集の他,東北区水産研究所,西海区水産研究所,北海道区水産研究所,北海道立稚内水産試験場,のとじま臨海公園水族館等の協力を得て,日本海の他オホーツク海や太平洋側からサンプルを入手することができた.またリストを作成し,本海域に少なくとも226種の深海性魚類が出現していたことを明らかにした.最も種数が多かったのはゲンゲ科で,8属26種が確認された.しかしリストには出現記録はあるものの証拠標本がないためにその生息に疑問がのこる魚類も83種含まれている分子系統学的な調査では,ゲンゲ科以外は十分な種数が集まらず系統樹の構築までには至らなかったが,基礎資料としての分子データを蓄積することができた.ミトコンドリアDNAシトクロームb領域を用いた分子系統学的な解析により,日本海でも多様な種を含むゲンゲ科マユガジ属が多系統起源であり,周辺海域から日本海深海域への侵入経路・時期が複数あるらしいことが推定された.日本海,東北太平洋岸およびオホーツク海に分布するノロゲンゲのうち日本海の個体は東北太平洋岸とオホーツク海の個体とは遺伝的に異なることが判明し,遺伝的な分化に日本海が大きく関わることが示された.また分類学的な調査ではゲンゲ科の1未記載種と1稀種,クサウオ科の1稀種,シキシマハナダイ科の稀種と思われる標本等を得た.さらに周辺海域からゲンゲ科の2未記載属を発見し,日本海と周辺海域の魚類分類をより明確にすることができた.
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