研究概要 |
1.高品位トンネル素子の作製 プラズマ酸化,ラジカル酸化および自然酸化法を用いて,金属Alの膜厚0.6nm-0.8nmの低抵抗強磁性トンネル接合を作製した.金属Alの初期の酸化過程が酸化方法の違いにより異なることに依存すると結論した.高品位の絶縁層を有するトンネル接合を作製するために,単結晶基板上に下部磁性層を成長させた.Si(111)基板上にAg/Cu層がエピタキシャルに成長することを確認した.この磁性層を用いて作製した強磁性トンネル接合は,耐バイアス依存性に優れていることを明らかにした. 2.接合界面の構造,電子状態 それぞれの酸化方法により作製したAl酸化絶縁膜の初期酸化過程を走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いて観察した.自然酸化,ラジカル酸化においては金属Alの表面にアモルファス状に酸化膜が形成されるのに対して,プラズマ酸化による酸化膜は表面で再構築したAl_2O_3の結晶構造をもつことがわかった.また,弾道電子放出顕微鏡を製作し,探針と接合の下部電極間にバイアスを印加して電流像および局所的な電流・電圧特性を測定した結果,電流像は強磁性トンネル接合の絶縁層の分布を反映した変化を示すことを明らかにした. 3.非弾性電子トンネル分光による絶縁層の解析 非弾性電子トンネル分光を行い,絶縁層および絶縁層/強磁性層界面の電子状態の解析を行った.界面に非磁性金属を挿入すると,ゼロバイアス近傍のスペクトルが上昇し,20mV近傍のピークが減少することがわかった.これは,界面の不純物散乱およびマグノン散乱を反映していることを明らかにした.またエピタキシャル成長させた下部磁性層を有する強磁性トンネル接合では,両磁性層の磁化が平行状態のスペクトルが顕著に減少した.これは,接合界面の不純物が大幅に減少していることを反映していることを明らかにした.
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