研究概要 |
加齢に伴って水晶体が黄色になることから、老人は黄色に見えると考えている人が多い。しかし、人間は脳で色補正をしているので黄色には見えない。筆者自身は65歳を過ぎて高齢者の仲間になるが風景が黄色に見えたことがない。そこで色のMTF特性を測定して色の見え方について定量的な研究を試みるために平成13年度に科学研究費補助金を受けて本研究を開始した。色のMTF特性は筆者の前勤務先の鹿児島大学の卒業研究で取り上げたが、過去に行われた色のMTF特性結果(坂田,磯野,TV学会誌(1979))と異なっており、むしろ輝度のMTF特性に近い様相を呈した。テストパターンに輝度の変化があったために色の特性が測れないと判断した。そこで研究は、測定に使用するグレーティングパターンに輝度の差がない色を選択することから開始した。しかし、人間が感ずる輝度(Brightness)と物理計測量の輝度(Luminance)があるので、交照法を使って両者の関係を明確にした。平成13年度本科学研究費により、遮光板回転装置を購入した。その結果、物理測定(分光放射計で放射強度を測定して輝度を求める方法)によって得られた値は人間の感ずる輝度と良く一致した。これは色度値と輝度値を計算で求め得る根拠を得たことになる。引き続いて輝度が一定な色光群を得る研究を行った。発光色の色空間に近いu'-v'色度を使い、ディスプレイの色を規定するコンピュータのR, G, B値との関係を実測値をもとに近似式を立てて輝度値と色度をともに決める方法を考案した。この方法で色のMTF特性を測るグレーティングの色を決めた。平成15年度このディスプレイを福岡市にある老人ホームに持ち込んだところ長時間暗室の中で老人の頭を固定するので苦痛であるとの理由で断られてしまった。そこで、平成15年度はもっと楽な姿勢で測る方法としてグレーティングパターンを印刷した紙のパターンを使う方法を開発した。 しかし、平成15年度に筆者は本大学の情報工学部・学部長に任命され職務がきわめて多忙となり本研究を遂行出来なくり1年間報告書の作成を延期した。平成16年度には4年生の卒業研究として取り上げて平成17年に報告書を完成した。本研究は高齢者として筆者一人の測定であったが、高齢者は黄色に見えるか否かは確認出来たと考える。人間の視覚は個人差が大きく、なるべく多くの被験者を測定すべきなので、今後も本研究を続けてデータの信頼性を高めていきたいと考えている。
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