研究概要 |
薄膜被覆材料は広範な機能的用途があるが,それらの実用時における健全性も同時に保証する必要がある.本研究では,薄膜被覆処理過程における薄膜や基材の微視構造的変化,さらにそれらに起因するその後の変形特性を解析した. まず,実際の被覆法としてスパッタリング法を用い,ガラス基板上にAl被膜,アルミナ(Al_2O_3)被膜および炭化ケイ素(SiC)被膜を成膜して創成した薄膜被覆材料について,それらの機械的特性を明らかにした.具体的には,Al被膜とセラミックス被膜の表面粗さおよび気孔率,Al被覆材のビッカース硬さおよびセラミックス被膜のダイナミック硬さ,ならびにAl被覆材およびセラミックス被覆材の曲げ強度を実験的に求め,さらにそれらの諸特性間の相互関係について,成膜条件との関連性も明らかにした. 次に,シリコン(Si)基板上のAl被膜のスパッタによる形成過程を解析するとともに,形成された被膜構造を有する被覆材の強度特性を解析できる分子動力学解析手法を新たに構築した.この解析手法を用いることにより,形成被膜における原子の充填率は,入射エネルギーが大きいほど気孔率が小さくなることがわかった.このような被覆過程の解析で得られた被膜-基板構造系に対して,界面に平行方向への単軸ひずみの引張負荷を行い,Al被覆膜の引張強度を解析し,被覆過程に生じた欠陥の存在により強度が低下することがわかった.さらに,圧子押込みに対しては,密度が低く気孔率の大きい薄膜の被覆材料において押込み力が小さくなることが明らかになった.このような解析結果と前述の実験結果との対比から,本研究で構築したMD解析手法は薄膜被覆材料の創成・構造・変形の解析に有効であり,さらにこの種の材料に対する健全性評価にも応用できることを示した.
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