研究概要 |
本研究では,走査型プローブ顕微鏡(SPM)内引張り試験機を開発し,同装置で引張り試験を行うことで,これまで困難とされてきたマイクロスケール電子デバイス構成材料のヤング率測定を実施し,電子デバイス材料における機械的性質を定量的に評価することを試みた.具体的には,代表的なマイクロデバイス材料である単結晶シリコン,Niメッキ薄膜試験片に対して引張り試験を実施し,同材料の弾塑性領域での応力-ひずみ関係を明らかにしている.ここでは,SPMに設置されているAFM(Atomic force Microscope)機能を用いることにより,これまで引張り法における欠点であったひずみ測定を高精度に行い,ヤング率の定量的評価に成功している.また,マイクロスケールNi試験片に対しては,常温下での引張り試験だけでなく,高温引張り・クリープ試験も併せて実施し,マイクロスケールNi薄膜材料の材料構成関係則を構築している.一方,磁気ヘッドの構成材料であるパーマロイ薄膜に対しては,SPMに設置されているMFM(Magnetic force Microscope)機能を用いて薄膜表面の磁区構造を観察した. 得られた結果を以下に示す (1)常温から300℃までの温度範囲で引張り試験が可能な,走査型プローブ顕微鏡内マイクロ引張り試験機を開発することに成功した. (2)SPMひずみ直接計測法を確立した.同方法により,マイクロシリコン試験片のヤング率は,マクロスケールのそれとほぼ一致することがわかった. (3)Niメッキ薄膜の高温引張り・クリープ試験を実施した結果,マイクロスケール寸法下での機械的性質の温度依存性はマクロスケールのそれより大きい.とくに,高温下でのマイクロスケールNi構造体は,マクロスケールのそれよりもクリープ変形の影響を受けやすい. (4)パーマロイ薄膜の磁壁をMFMにより観察した結果,膜厚が薄くなるにつれ磁壁幅が広くなることが明らかになった.また,膜厚の減少に伴ってブロッホ磁壁からCross-tie磁壁へ移行していくことがわかった.
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