研究概要 |
大都市の電波伝搬を予測・解析する上で重要なのは,建築物の壁等による散乱問題である.このことから,建物の壁における散乱についてまず検討した.最初に壁部のクラックにおける散乱現象の解析から,クラックの深さを推定する方法を考案し,測定も行うことにより,その手法の妥当性を調べた. 複雑な形状をした都市空間における電波散乱を効率的に解析する手法として,Adaptive Shooting and Bouncing Rays(適応SBR)法を提案し,建物を多角形近似し,建物の壁からの反射特性を導体近似で考えることにより,2次元平面内の解析を行い,その結果の可視化を行った.解析に際しては,多重反射回数や多重回折回数をどのくらい制限しても,最終結果に影響しないか,またどのくらいサンプル数かあれば,空間的な電磁界分布を把握するのに十分かといった基礎データを獲得した.またその手法の結果の妥当性を調べるために,Finite Difference Time Domain(FDTD)法による解析結果との比較を行った.また実際の大学キャンパス周辺の地理情報に基づいた建築物の情報を用い,設置されている1.9GHz帯のPHS小型基地局からの基地局情報信号の電界強度を実測し,解析した理論予測結果との比較も行った.その結果,本解析手法の妥当性を確認することができた. さらに本解析手法をより現実に近い3次元空間における解析に使うための高速計算アルゴリズムの考案やデータ入出力の工夫,解析結果の可視化表現の工夫や検討を試み,将来の大規模空間の解析のための貴重な知見を得た.
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