研究概要 |
本研究ではカオス信号で変調されたレーザ光を大気中に伝播させることにより距離計測を行う手法の開発を行った.カオス信号は,自己相関がデルタ関数に近い性質を持っている.このため,送信したレーザ光強度と大気中を伝搬して戻ってきたレーザ光強度との相関関数を取ると遅延時間にピークが現れ,距離計測が可能となる.抵抗,コイル,ダイオードから構成される電気回路に,入力電圧として適当な振幅と周波数を持つ正弦波の波形の交流電圧をかけると,ダイオードの端子間にカオス的な電圧が生じることが知られている.開発したシステムでは,このダイオードの端子間のカオス的な電圧によって半導体レーザを変調した.これにより,簡単な回路構成で安定したカオス変調レーザ光源を実現した.室内の大気中光路において,カオス変調された半導体レーザ光を用いて1-6mの範囲で距離計測実験を行った結果,10cmの距離精度が得られた.この値は,測定に用いた信号検出系の時間分解能の限界に近い値である.この値は,実験に用いた検出器の周波数帯域やAD変換の時間分解能の限界に近い精度である.信号処理系の時間分解能を向上させれば,本手法による距離の精度はさらに向上するものと考えられる.また,測定精度への雑音の寄与についても検討を行った.距離の精度に対する雑音の影響を評価した結果,パルスの強度と同程度の雑音が存在する場合でも,距離の精度にあまり影響がないことが分かった.このことは,本手法が雑音の影響の無視できない野外計測において有効であることを示している.またカオス変調された半導体レーザ光の信号を元に,光路の多重化に関する基礎的な評価を数値実験により行った.この結果本手法は,距離を固定した複数の光路のモニタリングにも応用が可能であることを明らかにした.
|