研究概要 |
当該研究は,視覚系の空間順応特性を測定し,得られる特性を代表者が提案している視覚情報処理モデルに組み込み,視角の小さな図形が明るく知覚される機構を明らかにすることを目的としている.これまでに以下の成果が得られた. 1.視覚情報処理モデルを実際のシーンに適用し,定性的ではあるが合焦物体のエッジや同物体上の模様等の抽出が可能であることを示した.また,両眼に入射した像の融合について検討した. 2.視細胞の光刺激に対する応答(動作曲線)は,S字型特性を示す.順応特性を考慮するためには,この動作曲線について検討することが必要である.ディジタル画像のコントラスト強調に動作曲線を用いたところ,従来法の問題点を改善できることを示した. 3.明暗領域境界を注視しながら,注視点から横方向縦方向にそれぞれ離れた点におけるスポット光の弁別閾を測定することにより,周囲の明るさの影響を受け変化する周辺順応の存在,およびそれが注視点で特に顕著であることを示した. 4.ストライプ図形の内部及び外部の明るさ知覚に関する心理物理学的実験を行った.その結果,ストライプ図形の外部が線間隔の減少に伴い,直角方向は明るく,平行方向は暗く知覚されることを示した.この結果より,主観的図形が明るく知覚されることが定性的に説明できる. 5.3.で得られた周辺順応の存在,およびそれが注視点で特に顕著であることと2.でその有効性を示したS字型動作曲線の概念を実際のシーンに適用した.特に明と暗との輝度の比が1000倍にも及ぶ高ダイナミックレンジのシーンに対して,周辺順応は有効に働くことを示した. これらの結果を総合すれば,視角の小さな図形が明るく知覚されることが説明可能と考えられるが,これを検証するため,5.の結果を1.の視覚情報処理モデルに組み込み,シミュレーションを行うことが課題である.
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