研究概要 |
本研究は,応用上重要な医用X線画像(具体的には胃X線二重造影像)を対象として,複雑な背景が透過重畳した投影画像から背景変動成分(トレンド)を推定して補正することによる画質の定量性向上を目的とした.その効果として,臓器構造と濃淡情報との対応付けがより明確となり,病変部の検出と計量,ひいては画像診断支援・自動化にも有用であることが期待される.本研究では,とくに画像形成の物理的原理に着目し,画像中でX線吸収が極小である画素の濃淡値を補間する濃淡包路面をもって背景変動分の推定とする基本概念を構築することができた.本手法によれば,観察対象の臓器や組織構造に適応したスケールで複雑な背景構造を織別することが可能になる. 本研究の主要な成果は(1)加法的に重畳した背景変動成分を濃淡包絡面として推定するために,弾性ネットを自由落下させることによる力学的アナロジーにもとづく方法を提案したこと,(2)濃淡包絡面を大域的に適応したものとするために平面三角形パッチおよび曲面パッチを用いた補間法の導入を提案したこと,(3)以上により背景変動推定の枠組みを与えるとともに,それを用いた濃淡補正の効果を検証したこと,(4)濃淡包絡面の精度を向上させるための画素サンプリングによる方法を提案したこと,(5)X線画像の透過重畳性に適合した他の方法である数学的モルフォロジーにもとづく方法に対する本方法の優位性を検証したこと,(6)一般的な画像信号処理手法である空間周波数領域フィルタリングに対する本方法の優位性を検証したこと,(7)X線画像の定量性向上の効果として,濃淡情報による立体構造の推定の有能性を実験的に示唆したこと,などである.
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