研究概要 |
強正実性はモデル規範型適応制御システムにおいて重要な役割を担っている.モデル規範型適応制御系の誤差システムが強正実ならば,グラディエント型パラメータ調整則により誤差システムを安定化できる.しかしながら,相対誤差が2次以上の場合には強正実性が成り立たず,適応制御系設計は難しいものとなる.最近我々は,誤差システムが強正実であるかわりに一本のRiccati方程式を満足するような正定解が存在するならば,誤差システムの漸近安定性を保証する新しいパラメータ調整則を提案した.しかし,このパラメータ調整則は閉ループ系の過渡応答におおきなオーバシュートをもつという欠点をもっていた.本論文では,閉ループ適応制御系の過渡応答性能を改善することを試みる.山村はdamped inductanceという新しいアイデアを導入することにより,電気機械の電磁過渡現象の解析解を導出するスパイラルベクトル法を提案した.我々はスパイラルベクトルと制御理論における虚軸シフトとを比較し,モータ制御系の過渡応答特性を改善するためにスパイラルベクトルを用いた適応制御系設計法を提案し,Current-Fed型の誘導器のIndirect Field Orient Controlに応用することにより,その有効性をシミュレーションにより確認した.我々の手法は次のような特徴をもっている.1)プラントの相対次数が2以上の場合でもRiccati方程式を満足する正定解が存在し,これにより,相対次数が2以上の場合でも相対次数1の場合と同様の方法で適応制御系を設計できる.2)スパイラルベクトルの指数部分を大きくすることにより,適応制御系のオーバシュートを小さくすることができる.ただし,制御系内の信号の有界性を保証するために,スパイラルベクトルは過渡応答の初期時刻付近のみに使用する.3)有界な外乱の存在する誤差システムの安定性をRiccati方程式の正定解の存在性問題に帰着できる.さらに,誤差のL_2性能条件も導出できる.さらに,この結果をブラシレスDCモータ制御系にも適用し,性能の改善を確認した.
|