研究概要 |
本研究では,外海域から沿岸域への外洋水の進入構造やそれに伴う栄養塩フラックスの定量化に向けて,性質の大きく異なる開放性沿岸域及び半閉鎖性内湾域を対象とした現地調査及び数値実験を行い外洋水影響の実態解明を試みた.平成13年度は,外洋域から沿岸域への栄養塩流入の実態を把握するために現地計測実験を鹿島灘海域で実施した.その結果から,鹿島灘沿岸域における栄養塩・クロロフィルa量の季節変化の基本特性が明らかとなり,季節変化よりも短いスケールの変動現象として黒潮流路の急激な接岸に伴って外洋域下層から高濃度の栄養塩が沿岸域に供給され,それが原因となって沿岸域に植物プランクトンのブルーミングが発生することを見出した.これまで,東北・常磐海域では親潮による栄養塩供給が海域の生産性を支える上で重要であると認識されてきたが,今回の計測結果は親潮のみならず,黒潮によっても栄養塩が輸送されることを示しており,黒潮親潮混合域にあたる同海域では,黒潮及び親潮の両者の影響によって沿岸域に高い生産性が保たれていることが明らかとなった.平成14年度には,数値モデルの構築を試み,外海栄養塩フラックスを評価する上で重要な内湾域への外洋水進入特性について東京湾を対象として検討した.数値モデルの妥当性を,外洋水進入の観測データが比較的充実している1999年を対象として,8〜9月に発生した外洋水の中層貫入現象の再現を試みたところ,観測によって捉えられている底層進入モード(8月)から中層貫入モード(9月)への遷移や流入する外洋水の流心が外海側から湾奥に向かうにつれて東側(千葉)側にシフトする性質などを正確に再現していることが確認された.これを用いて,1998年各月について外洋水進入特性を検討した結果,流入量は冬季に小さく夏季に大きいという基本的な季節変動に加えて,6月,9月には季節変動では説明できない強い流入が発生したことが推定され,この時の外海域の塩分水温構造を検討した結果,高温低塩分の黒潮系水が湾口部に押し寄せたことが強い流入の原因であることを明らかにした.以上のように,今回構築した数値モデルによってこれまでその評価法が困難であった外洋水進入量定量化の基本形を示すことができた.
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