研究概要 |
ダムの未放流や灌漑期には,間欠的にしか水が流れない減水区間となり,いわゆる「瀬切れ」や[水涸れ」が発生する.本研究は,魚類や甲殻類にとって生活史のボトルネックとなる減水区間の影響を,流況(塩水遡上を含む)・河床形態・水温・植生の被覆状況などの観点から評価したものである.対象河川は根尾川(揖斐川支流)・新境川(木曽川支流)・長良川河口堰「せせらぎ魚道」である. (1)減水区間を含めた魚類生息場のマクロ的な河道特性:対象河川における航空写真(1959〜1997年)を収集し,河川改修の進捗に伴う治水安全度や平水時の澪筋,瀬と淵の形成過程の評価を行なった.その結果,床固め工が設置される以前には,河道に交互砂洲が発達し,洪水頻度の低下によって「河道の陸地化」が発生していること,設置後は,流路が安定化される一方,魚類の生息場として重要な微地形(瀬と淵や砂洲形態)は絶えず変動していることが確認された. (2)減水区間における魚類生息場の劣化・回復過程:根尾川の山口頭首工から揖斐川合流部に至る区間で,流水部や湛水域の夏季水温状況を把握するために,水温データロガーを多数設置し,降水量・流量データも収集した.その結果,夏季と冬季の無降雨期間が長い場合や降水が少ない場合に減水区間が発生し,局所的に「水涸れ」が1〜2週間程度生じることが確認された.最深河床部に沿って温かい湛水域が生じ,アユやオイカワが集積する.また,急激な減水と地下浸透によって河床が乾燥化し孤立した凹地には魚類の残骸が密集する.このように,減水区間の特性は平常流水時とは全く異なっており,河床地形と河床材料に加えて,伏流水や地下水位の情報が必要であることが指摘された. (3)感潮域おける塩水遡上と甲殻類生息場:約2週間おきのモクズガニトラップ調査から,成長段階ごと(メガロパ幼生,1齢稚ガニ,稚ガニ)の個体数の経時変化を把握し,稚ガニの個体数は6月と12月にピークを迎えること,その内訳はメガロパ幼生と1齢稚ガニが大半を占めることなど,モクズガニの生活史の初期段階において,塩水の遡上を阻害しない「せせらぎ魚道」は,河口堰によって制限された感潮域の影響を緩和する役割を担っていることが確認された.
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