研究概要 |
等原子比近傍のNiTi合金は、室温近傍で形状記憶効果を発現するため広く利用されている。形状記憶効果を発現させているのは、NiTi合金の熱弾性マルテンサイト変態であり、優れた形状記憶合金の開発にはそのマルテンサイト変態の理解は欠かせない。近年、マルテンサイト変態開始前に、(1)弾性定数の低下(2)1/3<110>電子散漫散乱(3)フォノンのソフト化などのマルテンサイト変態の前駆現象が報告されているが、その際の電子構造の変化については全く情報がない。 研究代表者らは、マルテンサイト変態に前駆して起こる母相の電子状態の変化を明らかにするためNi_XTi_<100-X>(X=50.6,50.8,51)合金の陽電子寿命と電気抵抗の温度変化を測定した。さらに、Ni濃度を増し、もはや20K以上の温度域ではマルテンサイト変態を起こさないNi_XTi_<100-X>(X=51.5,52,53)合金についても、同様に、様々な温度で陽電子寿命測定を行った。その結果、Ni_XTi_<100-X>(X=50.6,50.8,51)合金の陽電子寿命はMs点より数十K高い温度から温度低下にともない、上昇することを発見した。一般に、温度を低下させると、体積収縮が起こるため陽電子寿命は減少することが知られている。本測定結果はこれと全く反対の結果であり、マルテンサイト変態に前駆して起こる母相の電子構造変化を捉えることに成功した。一方、マルテンサイト変態を起こさないNi_XTi_<100-X>(X=51.5,52,53)合金についても陽電子寿命測定を行ったところ、320から200Kまで温度を低下させると、陽電子寿命は増加した。これは、マルテンサイト変態を起こさないNiTi合金においても、マルテンサイト変態の前駆現象と同様な電子系の変化が起こっていることを示している。このようにマルテンサイト変態の起源を明らかにする上で大変重要な知見が得られた。
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