研究概要 |
炭素の細孔構造制御を目的として,有機物質から炭素を製造する過程の一部に液相化学処理を導入することを試みた.ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を有機系強塩基で液相化学処理した後に高温熱処理及び必要に応じて炭酸ガス賦活処理を施した.液相化学処理の程度を変化させることによって,細孔サイズ及び細孔容量が広範囲に制御された炭素を得ることに成功した.程度の低い液相化学処理を施した場合には細孔サイズが大きい炭素が得られ,一方,程度の高い液相化学処理を施した場合には細孔サイズ及び細孔容積が極めて小さい炭素が得られた.活性炭素の細孔サイズは未賦活炭素の細孔サイズと強く相関し,程度の低い液相化学処理を施した場合にはメソ孔が発達した活性炭素が得られた.直径が4〜10nmのメソ孔を発達させた活性炭素では,窒素ガス吸着によって評価した細孔容積が炭素1g当たり1.6cm^3,比表面積が炭素1g当たり250m^3に達し,液相からのメチレンブルーの吸着量が炭素1g当たり0.54gに達した.また,未賦活炭素についてリチウムイオン2次電池用負極材料としての電気容量を測定したところ,黒鉛の理論容量を大きく上回る値が得られた.一方,程度の高い液相化学処理を施して得た炭素は優れた力学的性質を示した.本方法による炭素の製造においては,液相化学処理によって熱分解性及び熱分解における体積減少が著しく異なる領域から成る不均一な構造が形成され,このことに起因して細孔が形成されることが明らかになった.本方法は不均一構造を利用する点においてはブレンドポリマーを用いる炭素の細孔制御法と共通するが,結晶・非晶領域に由来する不均一構造を利用していることに特徴があり,この方法で炭素の細孔構造制御が可能であることが明らかになったことにより,細孔構造制御を目的とする出発物質の選択の自由度が大幅に拡大したと言える.
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