研究概要 |
ラフト組織形成に対する連続体弾性論を用いた計算はすでにNabarroらによって行われているが近似の導入方法など疑問点が多い.歪場分布の計算時に弾性率ミスフィットを考慮しない一次近似の計算では,ラフト化に伴う弾性歪エネルギーの変化はNabarroらの結果と一致し,現実のラフト構造形成の方向とも一致する.しかしながらあらわに弾性率ミスフィットを考慮し,巨視的な変形を考えた場合,この一次近似の計算が明らかに誤った計算であることが明らかとなった.この場合生成するラフト構造は必ず横ラフトであって,この形成に格子定数ミスフィットは関係せず,また,外力が圧縮,引張応力であることにも依存しない.この結果は実験結果とは一致せず,ラフト構造形成について全てを弾性論で議論することは不可能であることが初めて示された. ラフト構造の形成前にある程度の転位が導入されている可能性が高い.変形転位が元の組織のどの部分を動くことができるかを考えた場合,いわゆるγ相の縦チャネルには(通常の横ラフト形成の条件では)弾性歪の効果によってすべり変形では進入することができないことが明らかとなった.したがって,変形転位によるγ,γ'界面の弾性歪の緩和に異方性が生じることが示された. 純弾性論から導かれるラフト化の駆動力は,まさにγ,γ'相の間の弾性率ミスフィットによるものであることから,弾性率ミスフィットが大きくなるように制御することは変形転位が導入される前の極初期におけるラフト化の促進に役立つ.一方で,変形転位導入後のラフト化においては弾性率ミスフィットの大きさによる部分は小さく,ほとんどが格子定数ミスフィットの大きさによって決まる.したがって,現実のクリープ変形においてラフト化を支配しているのは格子定数ミスフィットであり,弾性率ミスフィットはそれを強調する効果として表れるものと結論付けられた.
|