研究概要 |
アーク溶接技術は構造物の「要」となる加工要素である.しかし,そのアーク溶接現象が未だ正確に理論的な取扱いをなされていないため,素材から製品に至る一貫した生産・品質管理システムを構築するための大きな阻害因子になっている.したがって,アーク溶接現象の理論的理解は工業生産の知的化にとって最重要でありながら新世紀に残された重大な課題の一つである.本研究は,アーク溶接現象の鍵となる支配要素を抽出して,アークから溶融池にわたる統一された数値解析モデルを開発するとともに,そのモデルを用いてアーク溶接現象の理論的解析を行うことを目的としたものである. 「タングステン電極-アークプラズマ-溶融池」を同時に解く軸対称2次元の静止アルゴンティグ溶接の数値解析モデルを構築し,アークプラズマ温度など計算により予想された数値とレーザ分光測定等により得られた実験値を比較した結果よい一致を示した.さらに,シールドガスをヘリウムにも対応できるように汎用性を拡張し,良好な繰り返し計算の収束結果が得られた.以上より,将来的に生産現場で簡単に使用できるアーク溶接シミュレータへの展開の可能性が示された.また,数値計算により実験では得られない溶融池形成の支配要素を抽出して解析した結果,鉄鋼材料の溶融池形成には溶融池内の対流現象が極めて重要であり,「プラズマ気流による引きずり力」,「浮力」,「アーク電流による電磁気力」,「表面張力勾配によるマランゴニ力」の4つの駆動力の微妙なバランスにより溶融池内のマクロな対流が決定され,この対流がアークプラズマから伝達されるエネルギーを輸送し溶融池の形状を決定づけていることが明らかになった.
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