研究概要 |
部分溶体化処理を利用したマルテンサイト系ステンレス鋼の強靭化プロセスの開発を目的として,高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼(主に0.3mass%C)の炭化物分散処理,および分散した炭化物によるフェライトの析出サイト制御技術を確立した。具体的には,部分溶体化処理(焼入れ-焼戻し後にオーステナイト+M_<23>C_6二相域で再溶体化処理)により,直径約0.3μmのM_<23>C_6炭化物粒子をγ粒内に均一に分散させ,冷却時のγ→α変態の核生成頻度を著しく増大させることを可能にした。それによって等軸かつ結晶方位がランダムに分散した微細粒フェライト組織が形成され,「強度は高いが靭性が低い」従来材の延靭性および加工性を格段に改善することに成功した。引張特性による強度・延性バランスの評価は九州大学にて実施し,均一伸び,加工硬化,絞りがいずれも大幅に向上されるという結果を得た。また,加工性については,日新製鋼株式会杜にて深絞り試験を実施し,従来材で問題となっていた耳割れの発生を起こすことなく製品への加工が可能になることを明らかにした。さらに,本プロセスの最大の特徴として,製造時に加工を要せず熱処理のみでの組織制御が可能である点が挙げられ,実ライン上での製造においても何ら問題なく大型鋼材が得られることも確認された。また一方では,透過電子顕微鏡やX線回折法等を駆使して組織形成メカニズムについても明らかにしており,拡散理論を用いた速度論的な解析や最適熱処理条件の明確化も行っている。
|