研究概要 |
マイクロトレースアナリシスの高感度化を目的として,ICP-MSのプラズマの直近で電熱気化が可能なトーチを試作した.このトーチはサンプルインジェクターが着脱でき,インジェクターの先端に固定したタングステンフィラメンを用いて微少量試料を電熱気化した.既報の蒸発チェンバーを用いるタングステンフィラメント電熱気化法に比べ,信号のピーク強度が約2桁増大し,高感度化を達成できた.本法の絶対検出下限は,As0.5pg, Se1.1pgであった. 頭髪標準試料5mgを少量の硝酸及び30%過酸化水素水で分解後,標準添加法によりAs及びSeを定量した.試料溶液の5μlをトーチ内電熱気化/ICP-MSで測定した結果,定量値はAsが0.29±0.03,Seが1.8±0.2μg g^<-1>であり,認証値(As:0.31±0.02,Se:2.00±0.08μg g^<-1>)と良く一致した.さらに,頭髪1本相当(0.5mg)を用いてAs及びSeの定量を試みた.上記と同様に試料を酸分解した後,1μmol l^<-1>過マンガン酸カリウム溶液25μlを添加して蒸発乾固した.残留物を1mol l^<-1>硝酸500μlに溶解し,試料溶液とした.試料の前処理において,過マンガン酸カリウムを添加することにより,蒸発乾固の際の目的元素の損失(30〜50%)を防ぐことができた.As及びSeの定量値は認証値と良く一致し,満足すべき結果を得た. 本法を高純度銅中の微量Seの定量にも適用した.試料を酸分解後,5μlを分取して直接本法で測定した.しかし,銅が共存しない溶液に比べ,Seの信号強度が大きく減少した.また,フィラメントの劣化も著しかった.水酸化鉄共沈分離により,銅の残存量を0.1mgまで低減させた結果,これらの問題点が大きく改善され,高純度銅中のppbレベルのSeを良好に定量できた.
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