研究概要 |
イオンビームはその飛跡にそって高い密度でエネルギーを付与する.その飛跡のまわりのナノメートルオーダーの半径内の吸収線量は高分子がゲル化する線量を超える.本研究は,これを利用して,ナノスケールのゲル細線を作製しようとするものである.放射線架橋型の高分子であるポリジメチルシロキサンに256MeVアルゴンイオンビームを照射し,不溶分の重量の照射フルエンス依存性を調べることにより,イオンの飛跡ひとつひとつにゲルの細線が生成していることを明らかにした.また,256MeVアルゴンイオン,306MeVネオンイオン,204MeV炭素イオンをポリジメチルシロキサンに照射し,ゲル細線の重量のイオンビーム依存性調べた.ゲル細線の半径は,256MeVアルゴンイオン,306MeVネオンイオン,204MeV炭素イオンの順に細くなる.イオントラック内の線量分布とγ線照射の場合の架橋のG値を用いて,ゲル細線の大きさを推定できないか試みた.ゲル化が90%以上起こる線量となる半径を計算したところ実験結果をうまく再現した.すなわち,イオン照射効果は,イオントラック内の線量分布と低LET放射線の収率を用いて推定可能であることを明らかにした.単位体積あたりの吸収エネルギーに対してゲル分率を計算すると,ネオン,アルゴン,炭素イオンの順となる.また,ゲル化線量以上でのγ線照射の場合のゲル分率に比べ一桁小さい値となった.イオンビームでは中心付近ではゲル化に必要な線量よりはるかに大きいエネルギーが付与される.このため,中心付近では無駄にエネルギーを消費する.そのため,与えたエネルギーに対して計算すると小さな値となるのである.また,イオンビーム以外の放射線で高密度に反応を起こさせる方法を探る目的で,放射線により連鎖反応を起こす系であるイオドニウム塩のアルコール溶液について,その収率を支配する因子を調べた.
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