研究概要 |
我々はこれまで,代表的な導電性ポリマーのひとつであるポリピロール(PPy)の電解重合を磁場中で行うこと(磁気電解重合)を試み,得られた膜のモルフォロジーや電気化学特性などを調べてきた.その結果,磁気電解重合が膜のドープ・脱ドープ過程を大きく変えることがわかり,磁気電解重合による新たな機能制御の可能性が見出された.本研究では,そのような磁気電解重合膜を修飾電極として用いて以下のような特異な電極挙動を観察することに成功した. 1)磁気電解重合により水素発生反応を制御する-----p-トルエンスルホン酸イオンをドープしたポリピロール(PPy/TsO)の0T-膜および磁気電解重合膜上でのプロトンの還元を調べた.0T-膜では-0.3〜-0.4Vに還元波が観察される.重合時の磁場がファラデー電流に平行な場合,磁気電解重合膜では,還元波の立ち上がりが鈍くなり,プロトンの還元反応が起こりにくくなる.この変化は重合時の磁場がファラデー電流に垂直なときには観察されていない.プロトンの還元波の挙動は電極表面の分子配向に強く依存することはよく知られており,磁気電解重合によりポリピロール分子の磁場配向が変化したことに起因していると考えられる. 2)膜内レドックス反応を制御する-----Fe(CN)_6^<3->/Fe(CN)_6^<4->のレドックス系を取り込んだポリピロール膜を磁気電解重合で作製すると,レドックス電位が大きく-0.5Vも負にシフトすることが確認された.これは膜のドープ・脱ドープ挙動の変化に起因している. 3)PPy/TsOの磁気電解重合膜はサイズの大きなカチオンが溶液中に存在すると特異吸着を起こしレドックス応答が消失してしまう.これは膜が不活性化したのではなく,本来還元されて絶縁体になるような負の電位でも,膜は酸化状態にあり導電性を保った特異な状態になっている.これを電極として用いると,水素発生も起こりにくい電位窓の広い電極として使用することができる.さらに,このレドックス応答の消失はグルタミン酸やアスパラギン酸などでも起こることが確認され,光学活性な分子の吸着による不斉界面の作製など,より機能性の高い反応場の設計へと応用が期待される.
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