研究概要 |
従来,電極と電解質溶液の界面構造に関する振動分光学的研究は,分子の基本振動が現れる中赤外領域での検討が主流であった.しかしながら外部反射法を適用する限り,時定数の増大や物質移動溶液の阻害という問題は避けて通ることができなかった.一方,本研究では水分子による吸収が近赤外領域では比較的小さいという利点を生かして,まず多結晶金電極界面における支持電解質イオンおよび水分子の存在状態に関して検討をおこなった.その結果,われわれがすでに報告している中赤外領域の挙動と同様に,イオンの構造形成あるいは構造破壊能に応じて水の結合音に明らかな差異が認められ,固液界面の構造研究に対する本法の有用性を示すことができた. 赤外分光法はこれまで高反射率かつ安定な固体電極材料に対して適用されてきた.一方本研究では,炭素のような反射特性の劣る素材や,水銀のような液体電極と電解質溶液の界面に対しても,金基盤表面をアマルガム化して赤外外部反射法を適用することにより,界面構造に関する手がかりを得ることができた.過塩素酸イオンは,電気化学的には水銀にほとんど吸着しないと考えられてきたが,赤外法では吸着を示唆する結果が得られた.また,二重層内における水分子の構造についても興味深い結果が得られた.これらの結果は今後の電気二重層理論の展開において興味ある基礎データを提供するものと思われる.一方,ビオロゲン類は水銀表面に吸着して特異なスパイク状のレドックスピークを示すが,金単結晶電極でも非常に興味深い吸着挙動を示すことが明らかとなった.アルキル側鎖長を種々に変えて比較検討した結果,結晶面により複雑にボルタモグラム形状が変化し,吸着構造が下地原子配列の影響を強く受けていることが示された.こうした1対の鋭いレドックスピークは,高配向性グラファイト(HOPG)電極表面でも観察された.しかし,吸着分子の配向は,両電極で微妙に異なっていることが明らかとなり,このことがボルタモグラム挙動の差異に反映しているものと結論された.
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