研究概要 |
新規配位子として(1R,4R)-フェロセニルジオールを合成しこのスカンジウム錯体が不斉ディールズーアルダー反応の良好な触媒となることを明らかにした。この結果を受けて,新規1,4-フェロセニルジアミン配位子の合成を試みた。(1R,4R)-フェロセニルジアセテートをTHF/MeOH中でアンモニア水と反応させたが,目的のジアミンは生成せず1(1R,4R, Sp)-1,4-フェロセニルアセトアミドアルコールが単一のジアステレオマーとして得られた。この構造はX線構造解析により明らかにした。また,(1R,4R)-フェロセニルジアセテートをアセトン/水中で加水分解をしたところ,一方のアセトキシ基がより速く加水分解を受けて,対応するハーフエステルが生じることを明らかにしている。このように,1,2-置換フェロセン化合物において二つの置換基の立体配列が異なり,反応性の差を生じさせていることが原因であると考察した。すなわち,フェロセン基に対してexo側の置換基は鉄カチオンの隣接基関与により,脱離が加速されてカルボカチオンを形成し,立体保持で置換を受ける。もう一方の置換基はフェロセン基に対してendoの配列をとり,鉄カチオンの隣接基関与を受けず,安定なカルボカチオンが生成しない。これを裏付ける証拠としてジアセテートのX線回折を行い,二つの置換基の立体配列が予想した通りの構造であることを明らかにした。アミノリシスの全体の反応機構は以下のようにして進行すると考察した。すなわち,exoアセテートがアンモニアに立体保持のS_N1反応を受け,生じたアミノ基が分子内で隣接のアセトキシ基のカルボニル炭素を攻撃する。分子内アシル化によりアセトアミド基となり,アセテートは水酸基となる。分子内アシル化を妨げるように立体障害の大きなエステル基,すなわちピバロキシ基を用いてアミノリシスを行うと,アミノ基はアシル化を受けずにアミノエステルが生じた。このことから、本反応機構は妥当であると考えられる。
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