研究概要 |
キラル高分子は結晶性高分子であり,問題になるのはその複雑な高次構造である.本研究では,キラル高分子の一種であるL型ポリ乳酸(PLLA)を用い,様々な試行錯誤を繰り返し高次構造制御を試みた.しかし,通常行われる延伸法などの発展では困難であった.そこで,まず微小領域の旋光性や光変調性が評価できる三次元複屈折旋光評価システム(複屈折Retardation 分解能0.4nm(0.2deg))を開発した.このシステムを用いることで,迅速で系統的な物性評価が可能になった.その結果,我々は,金属加工で利用されている鍛造法を改良し,PLLAに適用することにより,非晶部分が殆どない高配向した膜(高度に構造制御された膜)が得られる可能性を見出した.更に研究を進めた結果,鍛造法は,PLLA膜にμm以下の微細な不均一構造を発生させていることが分かった.更に,その中に,配向方向がtiltしつつも,強い配向状態を示し,高結晶性である領域が存在することも判明してきた.実際,この不均一な試料の極一部に巨大な旋光性が存在する.この鍛造法により構造制御されたPLLA膜の旋光能は,7200°/mmにも達する可能性を見出した.これは旋光性結晶として有名なα-水晶の約300倍である.即ち,3mmの厚みを必要とした素子が10μmで同性能となりうる.一方,作製したPLLA試料の光変調性も追及した.測定は,PLLA試料の繊維軸に平行に直接レーザ光を入射し,印加交流電界の振幅や周波数に対する透過光強度の変化を評価した.透過光強度は,測定範囲内で,効率よく変化した.特に透過光強度が印加電界の二乗に比例し,変化することが確認できた.この実験事実は作製したPLLA試料に光変調性が存在することを示すものである.
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