研究概要 |
巨視的な粘弾性現象を,系の微視的な(分子レベルでの)構造変化や運動と関係づけて理解することを目的とし,粘弾性測定とひずみ複屈折測定を同時に行い,高分子の固体状態での局所ひずみと応力の発生について検討した.分子構造を系統的に変化させたポリカーボネート樹脂について,粘弾性副緩和(γ緩和)と分子運動の関係について検討した.ビスフェノールAポリカーボネートの繰り返し単位の二つのフェニレン基に置換基を導入したA系列と,メチル基を置換したB系列について,複素ヤング率と複素光学係数の温度分散の測定を,-140℃からガラス転移温度付近までの幅広い温度域で行った. ビスフェノールAポリカーボネートでは,粘弾性γ分散は周波数12Hzで-50℃付近で観測された.このγ分散は非常に顕著なもので,弾性率はγ分散の前後で約2倍変化した.A系列では,導入した置換基の大きさに応じてγ分散が高温側に移動するのが観測された.一方,B系列では,γ分散は置換基の導入によって変化しなかった.これらの結果のみでは,γ分散の分子論的起源として,フェニレン基のπフリップ運動を示唆するものと考えることもできるが,A系列,B系列のいずれの試料においても,γ分散のひずみ光学係数は負であることが判明した.したがって,γ分散には,フェニレン基といった光学的異方性の大きい原子団の配向が関与しているとは考えられない.複屈折の結果を矛盾なく説明するためには,鎖間の滑りといった光学的異方性の解放をともなわない並進的な運動が関係していると見なす方が適当であることが明らかになった.
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