研究概要 |
種子に含まれるフィチン態のリンを減少させて無機リンの形で貯蔵させることで,消化性の高い種子を実現して畜舎から排出されるリンを減少させ,環境への負荷を和らげることができる.そこで、種子のフィチン合成の鍵酵素、イノシトール1リン酸合成酵素の機能解明と分子育種を目的として以下の実験を行った。 1.イネのイノシトール1リン酸合成酵素遺伝子(RINO1)のプロモーターおよびCaMVの35SプロモーターにRINO1遺伝子をセンスまたはアンチセンスに連結させたコンストラクトを導入した形質転換体を作出したところ、非形質転換体種子では約5%程度である無機リン濃度(全リン比)が、形質転換体では20%近くに達する種子が検出され、RINO1遺伝子の発現が抑制されてフィチンが減少した可能性が示唆された。しかし、リンの貯蔵形態の大幅な変更にはいたらなかった。 2.プロモーター解析の結果、RINO1プロモーターは種子形成過程以外に、花粉形成や発芽過程でもプロモーター活性を有することが明らかとなった。このことは、1の実験でフィチン濃度の変化が予想よりも小さかったのはRINO1の発現を完全に抑制する形質転換体は生存不能となり得られなかった可能性が示唆された。 3.フィチン低含有種子育成のため、より種子特異性の高いプロモーターであるGluB1およびRISBZ1プロモーターの利用について検討した.GluB1はイネ種子貯蔵タンパク質グルテリンであり、またRISBZ1はグルテリンの発現を制御する転写因子であるため、これらのプロモーターは種子特異的であることが明らかとなっている.これらのプロモーターにアンチセンスRINO1を連結させた遺伝子を導入した形質転換体では無機リン濃度が62.8%にまで達する種子が検出され,フィチンが大幅に減少した可能性が示唆された. 以上より,リン貯蔵物質フィチンの合成経路で働くイノシトール1リン酸合成酵素遺伝子の発現を,遺伝子工学的手法を用いて制御することで,種子のリン貯蔵形態の改変、すなわち環境負荷低減植物の可能性を示すことができた.
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