研究概要 |
剛毛品種IRAT109,貧毛品種IRAT212および日本型品種を供試し,葉身表面の毛をマイクロスコープと走査電子顕微鏡で観察した.剛毛品種であるIRAT109の葉表面には5種類の毛が判別できた.これらのうちで長さ100〜1000umの長い毛はIRAT212や供試した日本の品種には認められなかったので,この毛がIRAT109の剛毛性を特徴づける毛と判断された.陸稲長毛品種IRAT109と貧毛品種IRAT212を供試し,ポット栽培において断水処理を行い,耐旱性を検討した.長毛品種は土壌に十分水がある場合の蒸散速度が低いことにより土壌乾燥が遅延し,水ストレスを受けにくいことが判った.剛毛品種IRAT109と貧毛品種IRAT212の光合成,蒸散および水利用効率を光-光合成曲線および大気湿度に対する反応について比較して剛毛性の効果を詳細に検討し,葉身の剛毛性は拡散伝導度を低下させ光合成速度よりも蒸散速度をより大きく低下させることによって水利用効率の改善に有効であることを明らかにした.剛毛性の遺伝について,剛毛性品種と貧毛性品種の正逆交雑によって得たF1,F2植物の葉身の毛性を調査したところ,F1植物はすべて剛毛性であり,F2植物では剛毛:貧毛=3:1に分離した.したがって、剛毛性は核の優性遺伝子支配の可能性が高いことが判明した.雑種植物の光合成,蒸散速度と表皮構造(長毛密度と気孔密度)を調査し,F1植物の光合成速度,蒸散速度,拡散伝導度の差異は主に毛性の差異に基づくものと考えられた.3年間の研究の結果,長毛性はイネの耐旱性を高める上で有用な形質であることが確認され,さらにこの形質は優勢に遺伝することが明らかになったので,今後陸稲の育種に利用すべく遺伝子群の探査,同定のためQTL解析などを進めていきたい.
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