研究概要 |
無機塩の一部には,それらを除草剤に添加したときに殺草効果が著しく高められる例のあることが知られていたが,これまでこの現象についての科学的な機構解明は行われてこなかった.本研究では,ナフタレン酢酸(NAA)を処理したササゲ葉ディスクから発生するエチレン量より葉内へのNAA吸収量を定量する方法をはじめ複数の生物検定法を用い,無機塩添加による薬剤吸収促進効果を証明するとともに,処理時の諸条件がこの反応に及ぼす効果について調査した.また,カンキツ栽培の現場で無機塩添加効果の実証を行った. ササゲ葉生物検定法によって,無機塩添加による薬剤吸収促進効果が確認された.本効果を持つ無機塩にはカチオンとしてアンモニウムを含むことが必要であった.但し,アンモニウム塩以外にも尿素が同様の吸収促進効果を持つことが判明した.処理溶液のpHが高いときには,NAAは解離した状態にあり脂溶性高分子膜である葉クチクラへの吸収が阻害されるが,アンモニウム塩の添加によって吸収阻害が打ち消された.アンモニウム塩処理はNAA処理と独立して行っても有効であったため,アンモニウムが葉面構造に何らかの変性を与え,そのために薬剤浸透性が高まるものと推測された.また,湿度処理は薬剤の浸透量に大きな影響を与えるが,薬液が乾燥した後にも雰囲気の湿度の影響が強く出るため,クチクラ高分子の水による膨潤反応と薬剤浸透の関係が示唆された.アンモニウムおよび尿素に共通する化学特性として高分子の架橋切断剤としての作用が考えられ,クチクラ高分子が可塑化されることが脂溶性薬剤の拡散移動促進をもたらしている可能性がある. ウンシュウミカン栽培に用いる植物生長調節剤ついて,塩添加処理効果を調査したところ,花芽形成阻害をもたらすジベレリン処理において,アンモニウム塩添加による効果の向上が認められた.この結果は,栽培の減農薬化と化学的環境負荷の低減につながる.
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