研究概要 |
Autographa californica MNPV (AcMNPV)感染によって,Sf9細胞の細胞周期はS期およびG2/M期でそれぞれ停止する.この停止は,単にウイルスがDNA複製のための基質を競合した結果ではなく,ウイルス感染によって積極的に誘導される現象である.本研究では,ウイルス感染による宿主細胞周期の制御機構を明らかにすることを目的として,ウイルス遺伝子の探索および宿主細胞周期制御因子の感染に伴う発現変動を調査した.また,ウイルス感染による細胞周期の停止が,アポトーシス誘導に関わっている可能性を調査する目的で,アポトーシスの検出条件を検討した. まず,細胞周期の停止はウイルス感染の初期に誘導されることから,ウイルス初期遺伝子の関与が予想された.そこでAcMNPVのコスミドDNAライブラリーを作製し,コスミドDNAを細胞にトランスフェクション法により導入することによって,細胞周期停止に関わるウイルス遺伝子の探索を進めた.つぎに,細胞周期制御に関わる細胞因子として,cdc2,サイクリンB, PCNAに注目し,ウイルス感染に伴う発現変動を,市販の抗体を用いて調査した.その結果,cdc2抗体およびPCNA抗体により検出されるそれぞれのタンパク質は,ウイルス感染によって核分画から消失することを明らかにした.この核分画からの消失機構を解析することによって,G2/M期での停止のメカニズムが明らかになると考えられた.ウイルス感染により誘導される細胞のアポトーシスは,顕微鏡による形態的な観察,DNA断片化の検出,カスパーゼ活性の測定,および活性化カスパーゼを同定することにより感度よく検出できることを示した.細胞周期制御に関わるウイルス因子を同定することによって,細胞周期制御によるアポトーシス誘導機構についての解析が進むことが期待される.
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