研究概要 |
本研究では,鉱さいを原料とする含鉄資材を用いて,環境保全効果としての水田からの温室効果ガス(メタン)の放出抑制と水稲生産性の向上を調和的に達成する水稲生産技術の開発を行った。 鉱さい資材の主成分である酸化鉄(合成品)とケイ酸(シリカゲル)が水稲生育とメタン放出量に対する効果を稲わら施用条件のポット試験によって検討した。還元発達が中庸な土壌では酸化鉄は硫化水素害を緩和し,またケイ酸添加はケイ酸供給により水稲収量を向上させた。メタン放出量は酸化鉄添加によって抑制されたが,ケイ酸添加の全メタン放出量に対する効果は判然としなかった。 易還元性酸化鉄量および易分解性有機物量が異なる沖積土および黒ボク土(各3土壌)を用いたワク試験によって,稲わら施用(500g/m^2)条件で含鉄資材(マンガン鉱さい,1kg/m^2)の効果を圃場条件で検討した。含鉄資材区の玄米収量は,資材のケイ素供給およびアルカリ効果による土壌窒素無機化促進によって2〜13%増加した。しかし,供試含鉄資材はその酸化鉄の還元抑制効果が低く,pH上昇による有機物分解促進によってメタン放出量を低下させることはできなかった。また,多くの市販含鉄資材(10資材)は,易還元性鉄供給能よりもpH上昇効果が大きいためにメタン生成量を抑制できないことが明らかとなった(湛水培養(30℃,28日間)の結果)。 そこで,含鉄資材のpH上昇効果を低下させ,かつ酸化鉄の易還元性を高めるために,塩酸処理(pH6まで中和)を行い,その改良した含鉄資材の効果を圃場条件で明らかにした。3種のオリジナルの市販含鉄資材は,pH上昇による窒素無機化促進とケイ酸供給によって水稲収量を向上させたが,pH上昇によってメタン放出量を18〜37%増加させた。一方,3種の改良含鉄資材は,対照区に比べて水稲の玄米収量を34〜46%増加させ,かつ2つの改良した資材はpHを上昇させず,土壌の易還元性酸化鉄を増加させることにより,メタン放出量を10〜41%減少させた。改良した含鉄資材は,ケイ酸,酸化鉄,塩基,微量要素の供給といった総合的な土壌改良効果により水稲生産性の持続性を高め,かつ水田からのメタン放出量を減少させることができることを明らかにした。
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