研究概要 |
本研究者は,脈翅目ウスバカゲロウ科昆虫に属するクロコウスバカゲロウ幼虫には殺虫性蛋白質を産生する細菌類が共生する.本研究では,それらの共生細菌類が産生する殺虫性蛋白質の構造を解明するとともに,蛋白質の諸性質を明らかにすることを目的とした.本研究の開始時点では,殺虫性蛋白質を産生する細菌としてEnterobacter aerogenesが得られていた.しかし殺虫性蛋白質を産生するクロコウスバカゲロウ幼虫の共生細菌はE. aerogenesだけではないと考え,同じような性質を示す共生細菌を探索した結果,Basillus cereusを見出した.本菌は,殺虫活性を示すphospholipase C (PLC)を分泌することで知られている.そこで,クロコウスバカゲロウ幼虫の吐き戻し液にPLCが含まれているのかどうか調べた結果,吐き戻し液から一定の割合でPLCが検出された.PLCとは異なる殺虫性蛋白質をB.cereusの培養液から精製した結果,分子量約70Kの蛋白質Toxin 1および分子量約35Kの蛋白質Toxin 2を単離した.Toxin 1および2は,それぞれzinc methalloprotease inh2Aおよびsphingomyelinase Cと相同性を示した.両蛋白質をコードする遺伝子をB.cereusからクローニングして塩基配列を解読することにより,それらの全一次構造を解明した.一方,クロコウスバカゲロウ幼虫の素嚢から共生細菌類を単離し,ハスモンヨトウ幼虫に対して経口的に投与した.その結果,多くの細菌類がハスモンヨトウ幼虫に対して顕著な感染性を示し,投与開始後数日以内に幼虫を死滅させることを見出した.以上のような研究と併行して,殺虫性蛋白質の試験系の一つとして,ネオニコチノイド系殺虫剤に対して様々な感受性を示すニコチン性アセチルコリン受容体をも構築した.
|