研究概要 |
森林棲コウモリの一種である.ヒメホオヒゲコウモリの生息場所として自然林の重要性が指摘されている.しかし,その生態についての知見はほとんどない.本研究では,本種のねぐらとその選択性について明らかにすることを目的とする. 2001年8月および2002年7月、8月6日に,成オス5頭,成メス4頭の計9頭に小型発信器を装着してねぐらを探索した.また,ねぐらのある部位および出巣個体数を把握するため,目視,ビデオ撮影等により夕方に出巣を観察した.ねぐら木は,樹種,DBH,樹高,スナッグランクについて調査した.比較のためのランダムサンプル木は,PCQ法によりDBH20cm以上の木を対象とし,サンプリングを行った.またねぐら木の周辺木4本についても同様の調査を行った. ねぐらを突きとめられた個体は,成オス3頭と,成メス4頭の計7頭であった.追跡日数は1〜6日,各個体の利用ねぐら木数は1〜5本で,計8種16本のねぐら木が確認された.そのうち9本は立枯れ木であった.胸高直径は,23.8-110.5cmであった.ねぐらとして利用された部位は,樹皮下が4ヵ所と一番多く,ふしの穴とツルの下がそれぞれ1例確認された.ねぐら木は,周辺木およびランダムサンプル木よりも枯死立木が有意に多く利用されていた(Fisher's-test, p<0.01).またDBHは,ねぐら木で有意に太かった(U-test, p<0.01).この結果は太い木や立枯れ木には浮いた樹皮が多く存在することと関連していると考えられる.今回,同一個体が短期間にねぐらを換え,複数のねぐら木を利用することが確認された.本種の分布が自然林に限定されるのは,ねぐらとなる立枯れ木等が自然林には豊富に存在するためと推察される.今後は保全上重要な出産哺育場所に関するデータの蓄積が必要である.
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