研究概要 |
本研究は,混交林で樹種,特に林冠木の多様性が維持,変化するメカニズムの解明を目的とした。そのために樹木種子・実生の捕食者であり,種子散布者でもある野ネズミの行動に注目し,以下の作業仮説をたて,検証を行った。 1.混交林では,不均一な上層林冠構造のため林床の光環境も不均質となり,それに対応して異なる構造をもった下層植生がパッチ状に発達,分布する:林冠の疎開程度に対応した下層植生の発達が確認された。 2.野ネズミは混交林内にモザイク状に分布する下層植生のパッチを中心に活動し,下層植生パッチの発達は野ネズミの種多様性,生息密度を増加させる:ブナ成熟林,壮齢スギ人工林ともにヒメネズミ,アカネズミの利用場所選択は季節によって大きく変化した。種子捕食,散布に関係する秋季では,両種とも特定の植生構造を利用する傾向は認められなかった。 3.下層植生のパッチ構造に対応した野ネズミの密度,活動の特性により,パッチ内,外で樹木種子,実生の捕食率,種子散布プロセスが変化し,樹種多様性が変化する:野ネズミは下層植生の貧弱なサイトを避け,結果として野ネズミによる種子捕食圧は種子密度ではなく林冠の構造に依存して変化した。 以上の成果から,混交林はその構造,種組成が変異に富んでいるため,そこに生息する野ネズミの種組成,密度及び活動も林分構造,なかでも下層植生構造により変化し,そのことが構成樹木の更新に影響し,結果として混交林の樹種多様性を変化させることが明らかになった。したがって,下層植生を横極的に管理することにより,野ネズミの行動変化を介して,森林の更新プロセスを変化させ,結果として森林生態系の生物多様性を制御できる可能性があると考えた。
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