木部の通導組織(道管や仮道管)の構造と配列の異なる樹種の苗木や成木の蒸散量とアコースティック・エミッション(AE)の関係を調べ、蒸散量すなわち樹幹内の水分の通導量とAE事象率との間に密接な関係が有ることが分かった。さらに、成木幹から採取した木部試験片を使用し、減圧注入により水を通導させ、AE発生特性と水分通導量、水圧の圧力差を計測し、また、通導組織の内径と実際に通導に用いられた通導組織の数を測定し、流体力学的に検討した結果、樹木中の一定時間当たりの通導量、すなわち、流速は、ポアズイユの式に従い、圧力差、通導組織内径、通導組織数によって、決定されることが確認された。AE発生数は通導組織数と相関性を示した。また、AE発生は流速がある任意の値に達する間ではほとんど見られず、その値をこえると流速に比例して発生することが分かった。 苗木および成木の、灌水、気象、樹病などによる条件により、AEの発生が認められ、水ストレスの検知などの樹木診断に応用が可能であることが分かった。また、AEは蒸散流だけに限らず、芽の展開時の水通導にも対応し、樹木フェノロジーの研究にも利用できることがわかった。 AEや超音波CTなどの超音波技術を樹木診断に応用するためには木部の超音波伝播特性も検討する必要がある。超音波顕微鏡を利用して木材細胞壁を調べた結果、ミクロフィブリル傾角に対応した音速異方性を検出することが可能で、異方性弾性測定に応用できることが分かった。また、木材の横方向の超音波伝播特性を、超音波パルサー・レシーバを用いて調べた結果、針葉樹では仮道管の、広葉樹では道管や繊維の、それぞれの構造や配列に対応して、みかけの音速が決定されることが分かった。
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