研究概要 |
九州の天草周辺海域ではハンドウイルカが周年にわたって出現する,平成12年の春,熊本県通詞島周辺海域を生息の場としていた個体の大部分が60km位離れた鹿児島県長島周辺海域に移動した.本研究はこの移動の原因を探ることを当初の目的としていたが,平成13年の春にほとんどの個体が通詞島周辺海域に戻ってきて,逆に一部の個体のみ長島周辺に残った. ハンドウイルカTursiops truncatusとされていた種が最近の分類学的研究からハンドウイルカT. truncatusとミナミハンドウイルカT. aduncusに分けられるようになった.天草周辺海域のハンドウイルカがどちらの種であるかを判定する必要があった. そこで,両海域間での個体群特性の比較に焦点をあてつつ,種判定,個体数および海域利用を明らかにすることを本研究の目的とした. 本研究から以下の成果を得た.この海域のハンドウイルカは形態学,遺伝学的特性からミナミハンドウイルカであることが分かった(Shirakihara et al.2003).このイルカは周年定住型であり,その個体数を218頭,95%信頼区間を195-242頭と推定した(Shirakihara et. al.2002).この個体群は日中,主に水深20m以浅域を利用し,岸に沿った比較的規則正しい日周移動のパターンを示した.夜間、外海には行かず何らかの活動をした後、朝の過渡期を経て、昼間に浅海域で休息し、夕方から夜間の活動場所に向かい始めると推測した. 天草周辺海域にはこのようにミナミハンドウイルカの小さな周年定住型個体群が生息しており,ウォッチングからのストレスほかの負の人為的な影響にさらされている.今後も個体数が減少してないかどうかの確認が必要である.
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