研究概要 |
本研究の目的は,水産分野におけるHACCPを念頭において,免疫反応のブラウン運動を指標とした高感度かつ迅速な新しい微生物検出法を開発することである.まず,本法を実際の水産食品の菌数測定に適用することを念頭において,超音波振動エネルギーを用いた菌体脱離法を確立するために,フローサイトメトリー(FCM)による評価を行った.その結果,各種水産食品(練り製品,魚介類)に付着している菌体を,約5分の超音波照射時間で95%以上脱離できることがわかった.またフルオレッセインイソチオシアネートで標識した抗-大腸菌ポリクロナール抗体を用いて,練り製品中の大腸菌の特異的検出をFCMで試みたところ,1時間程度でその検出が可能であることがわかった.次にブラウン運動を指標とした細菌の特異的検出法の確立を検討した.すなわち,食品衛生上重要な危害因子となるサルモネラ属菌と,これに対する抗体ラテックスビーズを免疫反応させることにより,この際生じるブラウン運動の変化をサブミクロン粒度分布計で測定し,それらの粒度分布を解析した.免疫反応後,菌体とビーズの凝集体のブラウン運動は小さくなり,これにより予想される菌体の全長よりも大きな値が得られた.これは抗原抗体反応により複数の菌体が抗体とともに凝集し,その結果粒子の全長が大きくなったためと考えられた.一方,大腸菌を対照試料とした場合,上記のような変化は認められなかった.したがって本法を用いることにより硝化細菌を特異的に検出できることがわかった.なお,一検体当たりのブラウン運動解析所要時間は約6分であり,抗原抗体反応等の前処理を加えても2時間程度で菌体検出を行うことが可能であった.以上,本研究で得られた知見はサルモネラ属菌ばかりでなく,抗体の種類を変えることにより,他の食中毒菌にも応用できる可能性があり,今後のHACCPに大いに貢献できるものと考えられる.
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