研究概要 |
共役リノール酸(Conjugated linoleic acid : CLA)は、リノール酸の位置・幾何異性体の総称である。CLA異性体の中で、反芻家畜に多く存在するcis9,trans11 (c9,t11)異性体は、反芻家畜由来食品の総CLA含量の約80〜90%を占めている。CLAのc9,t11異性体は、抗発がん作用を発現する。c9,t11 CLAはルーメン内での水素添加反応によって飼料性リノール酸からステアリン酸への中間代謝物として生成されることが知られている。われわれのこれまでの研究結果によれば、濃厚飼料(トウモロコシなど)を比較的多給した反芻家畜に比べて粗飼料(牧草など)を比較的多給した反芻家畜からの肉と脂肪のc9,t11 CLA含量が有意に高かった。これらの事実は、牧草脂質に多いα-リノレン酸がc9,t11 CLAの生成に関与する可能性を示唆するものであった。 そこで、ルーメン液に高リノール酸含有トウモロコシと高α-リノレン酸含有牧草を培養し、c9,t11 CLA生成量を調べた。その結果は高α-リノレン酸含有牧草からのc9,t11 CLA生成量が高リノール酸含有トウモロコシに比較して有意に高く、α-リノレン酸を経由するc9,t11 CLAの生成を示唆した。α-リノレン酸塩をルーメン液に培養し、c9,t11 CLAの生成をはじめて確認した。また、c9,t11 CLA生成には、ルーメンpHの影響があった。ルーメン液と培養したα-リノレン酸塩からは、3種類の中間代謝物が検出され、その中のc9,t11,c15 octadecatrienoic acidがc9,t11 CLAの生成に関与することが示唆された。この研究で得られた結果は、リノール酸の他に、牧草脂質に豊富なα-リノレン酸がc9,t11 CLAの潜在的前駆脂肪酸であることをはじめて示すものであった。
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