研究概要 |
Pdx1遺伝子をIEC-6細胞に導入し、4日間メンブレンフィルター上で培養するとIEC-6 empty vector細胞に比べて形態が大きく変化した。単層の細胞の上に別の細胞が重層化し、上に乗った細胞の細胞質に分泌顆粒が多数認められた。免疫組織化学的検索でこれらの細胞は、serotonin, somatostatin, CCK, gastrin, PP等のホルモンを産生することがわかった。しかし、insulin, glucagon, GLI-1, GIPは検出出来なかった。以上の結果より、Pdx1遺伝子の導入で上部消化管に特異的な内分泌細胞と膵内分泌細胞へ分化させる事が出来たが、β細胞へ分化させることは出来なかった。この結果は、β細胞の分化にはPdx1以外の転写因子が必要であることを示している。事実、正常動物の膵島に発現するIsl-1遺伝子がYK細胞では発現していないことがわかった。本研究でYK細胞に、インスリノーマ細胞から単離されたEGFファミリーに属する栄養因子であるbetacellulinを負荷することでインスリン産生細胞へ分化させることに成功したが、このBYK細胞では、Isl-1遺伝子の発現が観察された。この結果より、β細胞への分化にはPdx1遺伝子とIsl-1遺伝子の両方が必要であることがわかった。事実、Pdx1とISL-1を同時導入したIsl-YK細胞ではインスリン産生能が証明できた。Isl-YK細胞を糖尿病ラットの腹腔内に細胞移植すると、移植後1日目より血糖値の下降を認め、同時に血中インスリン値の上昇を認めた。しかし、この効果は短期間で消失した。in vitroで分化させた細胞がin vivoで長期間生存し、かつ生理機能を発揮するためには、さらなる研究が必要と考えられる。
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