研究概要 |
生体組織内の水は生体高分子との相互作用の程度の相違によって「不凍水,束縛水(両者を合わせて"結合水"と総称),自由水」という状態に区別される。このうち「結合水」をMR画像上で可視化することによって,間接的に生体高分子の機能を可視化しようとする目的で,磁化移動効果を利用したequivalent cross-relaxation rate (ECR)というMR画像法を乳癌の組織構造と対比させ,その有用性を検討した。対象は浸潤性乳管癌患者27例である。Intracellular matrixの評価として乳癌組織をdysplastic changeおよびmitotic indexにより3グループに分類した(extent of fibrosis)。またextracellular matrixの評価として乳癌組織の線維化の程度を3グループに分類した。MRIにおける測定はECR法である。ECRはECR(%)=100x[(Mo/Ms)-1]と定義し,ECRを算出・画像化した(但し,Ms, Moはオフレゾナンス飽和パルスを付加したとき,および付加していないときの同一計測部位における信号強度である)。 水の共鳴周波数から7ppm離れた部位を照射したときのECR値(ECR-7)は乳癌組織の細胞質の多い部分で高い値を示し,dysplastic changeとmitotic indexと相関した。一方,水の共鳴周波数から19ppm離れた部位を照射したときのECR値(ECR-19)は乳癌におけるextent of fibrosisと相関した。これらの結果から,乳癌の組織構造を評価する上で,ECR-7は分子構造に水酸基を豊富に含むDNA, RNA,アミノ酸等のintracellular matrixに関する情報あるいは生細胞量に関する情報を反映し,ECR-19はコラーゲン等のextracellular matrixに関する情報を反映することが示唆された。従って,タンパク質-水分子間の相互作用を反映するECR法は生体組織内の微細分子構造を良く反映するMR画像法である可能性が示唆された。
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