研究概要 |
モルモット心臓から酵素処理により得られた単離心房筋細胞に全細胞型パッチクランプ法(whole-cell patch-clamp mode)を適用して,イノシトールリン脂質による緩徐活性型遅延整流性K^+チャネル電流(I_<Ks>)の調節機構の解析を行った.I_<Ks>は保持電位-50mVから種々の膜電位に脱分極パルスを与えて活性化し,活性化の程度は-50mVに再分極したときに発生する末尾電流(tail current)の大きさで評価した.本研究課題により得られた研究成果は以下の通りである. 1.高濃度(【greater than or equal】〜10μM)のwortmanninはPI4-キナーゼをブロックすることにより細胞膜のホスファチジルイノシトール4,5-二リン酸(PtdIns(4,5)P_2)量を減少させることが知られている.Wortmannin(50μM)をパッチ電極を介して細胞内に負荷するとI_<Ks>の大きさは208.5±14.6%(n=9)に増大した. 2.PtdIns(4,5)P_2(100μM)を細胞内に負荷するとI_<Ks>の大きさは44.8±8.2%(n=4)に減少した. 3.抗PtdIns(4,5)P_2抗体を細胞内に負荷するとI_<Ks>の大きさは198.4±19.9%(n=5)に増大した. 4.細胞膜PtdIns(4,5)P_2のもつ負電荷を中和するneomycin(50μM)やAl^<3+>(50μM)を細胞内に投与するとI_<Ks>の大きさはそれぞれ161.0±13.5%(n=4)ならびに150.0±8.2%(n=4)に増大した. これらの実験結果により,モルモット心房筋細胞のI_<Ks>は細胞膜PtdIns(4,5)P_2により抑制性の調節を受けており,それにはPtdIns(4,5)P_2のもつ負電荷が関わっている可能性が示唆された.さらに, 5.細胞外ATP(50μM)によるP2Y受容体刺激はGq-ホスホリパーゼC(PLC)の活性化を介してI_<Ks>を増大させるが,パッチ電極を介して細胞内にPtdIns(4,5)P_2(100μM)を負荷すると細胞外ATP(50μM)によるI_<Ks>の増大作用は著明に減少した.よって,P2Y受容体刺激によるI_<Ks>の増大反応には細胞膜PtdIns(4,5)P_2の消費・減少が第一義的に関わっていると考えられた. このように,細胞膜PtdIns(4,5)P_2によるI_<Ks>の抑制作用はGq-PLC連関受容体刺激に伴うI_<Ks>の増大反応に密接に関わっている可能性が示唆された.
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