研究概要 |
多くの細胞が時計遺伝子を発現しているにも関わらず、視交叉上核(SCN)のみが主時計として機能する時計遺伝子の組織特異性を、時計遺伝子変異マウス、過剰発現マウスを用いて追求するとともに、新規時計遺伝子機能を検討した。 13年度:時計遺伝子Clockの変異マウスは、SCNにおける時計遺伝子発現リズムが消失し、連続暗では行動リズムも消失する。このため、Clock変異はリズム停止変異であると考えられていた。そこで、SCNの器官培養と分散培養を行い、単一神経細胞からの長期連続神経活動記録を行った。その結果、明瞭なサーカディアンリズムを示す細胞が、器官培養では記録した神経の77%、分散培養では20%、一方、野生型マウスでは各々95,46%であった。以上の結果、時計遺伝子Clock変異はリズムを消失させないこと、SCN神経細胞には、自律振動体をもつ時計細胞と時計細胞に駆動されてリズムを発振する細胞があること、SCNの構造維持が高振幅のリズム発振に重要であることが明らかとなった。 14年度:SCNにおける時計遺伝子発現検索の一環として、軟骨細胞の分化に関与するbHLH転写因子DEC1と類似遺伝子DEC2の発現を検討した。その結果、DEC1,2共に、主観的明期にピークをもつ発現リズムを示し、DEC1は主観的暗期の光照射で発現が誘導されることが分かった。さらに、DEC1,DEC2共にCLOCK, BMAL1によるE-boxを介する転写誘導を、既に報告されているcore loopの抑制因子PER1,2,CRY1,2よりも強く抑制すること、その機序はE-boxへの競合的結合あるいはBMAL1蛋白への結合であることを明らかにした。以上の結果、従来のPer発現を巡るfeedback loopと連動するDec loopの存在が明らかとなり、生物時計のより精密な分子機構の解明に大きく前進した。
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