研究概要 |
血管内皮細胞増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor : VEGF)は,血管内皮細胞の維持,増殖に重要であり血管構造形成に重要な物質である。VEGFは,血管壁の平滑筋細胞やマクロファージなどの正常細胞で産生されるほか,さまざまな癌細胞で産生され血管内皮細胞に特異的に作用し血管新生を誘導する。血管新生は,既存の血管から新しい血管網が形成される現象で,個体の発生,成長,黄体形成,創傷治癒などの生理的過程や腫瘍,糖尿病性網膜症,閉塞性血管障害といった病的状態の進展や修復の過程で重要な役割を果たす。これらの生理的・病的状態では,当該組織細胞内における局所的なhypoxiaが細小血管の増生の主要因と考えられてきているが,その機構に関してはなお不明な点が多い。また,以前より,有酸素運動によって骨格筋の毛細血管数が増加することが知られており,その機序についてのさまざまな検討が行われている。そこで,本研究では,動物(ラット)を用いて,VEGF発現に及ぼす有酸素運動の影響について検討した。トレーニングにより,長指伸筋およびひらめ筋において毛細血管数の増加が観察された。また局所的な一過性のVEGF発現の上昇が,有酸素運動時の毛細血管数増加に関与している可能性を明らかにした。 また機能性食品であるエイコサペンタエン酸(EPA)のようなシス配置の多価不飽和脂肪酸は,魚油の主要な脂肪酸成分であるが,これらは細胞膜に作用し様々な生理学的影響を与える。本研究では,これら多価不飽和脂肪酸がヒト臍帯血管内皮細胞(HUVECs)においてエンドセリン-1(ET-1)産生にどのような作用を及ぼすかを検討することを目的とした。さらに,インスリン添加時での多価不飽和脂肪酸のET-1産生に及ぼす作用についても検討を加えたEPAは,インスリン添加時,非添加時いずれにおいてもHUVECsのET-1産生を抑制するが,これは,EPAによる亢進したNO産生によるフィードバック機構ではなく,EPAによるET-1 mRNAの発現抑制による直接作用であることがわかった。 このEPAのE-1産生抑制作用は,EPAの血管拡張ならびに抗動脈硬化作用の一端を担っていると考えられる。以上の結果をHypertension Researchに発表した。
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