研究概要 |
第四脳室(4V)カテーテルを用いてアンギオテンシンII(Ang II)を家兎の延髄表面に投与すると,交感神経血圧反射が著明に促進されることが知られている。本研究では,この現象におけるAng IIの作用部位を同定するとともに,その作用メカニズムについて検討した。 1.作用部位の同定 Ang II(10 pmol/min)の4V投与によって引き起こされる腎交感神経血圧反射促進作用は,両側の吻側延髄腹外側野(RVLM)にAng II受容体阻害剤(Sarile,10pmol)をあらかじめ投与しておくことによって完全に消失した。この結果より,RVLMがAng IIの血圧反射促進作用における主要な作用部位であることが強く示唆された。 2.ユニット記録システムの開発 RVLM心血管運動ニューロンの血圧感受性に対するAng IIの効果を検討するため,血圧を大きく変動させても安定してRVLMニューロンの単一ユニット記録が可能な記録システムを開発した。同システムは,レーザー距離計を用いて記録中の脳の変位を計測し,この情報に基づいて記録電極の刺入位置を自動補正するものである。 3.作用メカニズムの検討 RVLM心血管運動ニューロンの血圧-発火頻度関係に対するAng IIの効果を解析した。その結果,約半数の心血管運動ニューロンにおいて,Ang IIは血圧-発火頻度関係のupper plateau(血圧低下に反応して発火頻度が増加する反応の上限)を有意に増加させることが明らかになった。個々のニューロンより得られたAng II投与前後の血圧-発火頻度関係の加算平均曲線を求めると,Ang II投与前後の交感神経血圧反射特性ときわめて類似した曲線が得られた。この結果より,Ang IIの交感神経血圧反射修飾作用が,RVLM心血管運動ニューロンの血圧感受性の変化によってもたらされていることが示唆された。
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