研究概要 |
イヌ脳底動脈において伸展刺激誘発性ミオシン軽鎖(MLC)のリン酸化について検討した。テトラエチルアンモニウム存在下、1mm/secの速度で初期筋長の1.5倍に伸展し、その伸展状態を15分間保持するとMLCの複数部位(少なくとも3ケ所)がリン酸化された。この複数部位のリン酸化はミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)阻害薬ML-9またはプロテインキナーゼC(PKC)阻害薬カルホスチンCにより部分的に抑制されたが、両阻害薬存在下ではほぼ完全に抑制された。また、MLCのリン酸化はRhoキナーゼ阻害薬のY-27632によりほぼ完全に抑制された。さらに、伸展刺激によりRhoAの細胞質から細胞膜への移行および130kDaのミオシンホスファターゼ(タイプ1)の調節サブユニット(MBS)のリン酸化が認められた。Y-27632によりMBSのリン酸化は抑制された。一方、イヌ脳底動脈に存在する4種類のPKCアイソフォーム(α,δ,ζおよびη)のうち、伸展15分後ではPKCαの細胞質から細胞膜への移行は認められず、PKCδのみの移行が認められた。また、MLCの複数部位のリン酸化は主にPKCαを阻害するGO6976により抑制されたが、PKCδの特異的阻害薬であるロトレリンにより影響されなかった。さらに、ホスファターゼ阻害薬のオカダ酸(OA,5μM;この濃度ではホスファターゼタイプ2Aを抑制)によりMLCの複数部位(少なくとも3ケ所)のリン酸化が認められ、このMLCのリン酸化は伸展刺激では影響されなかった。また、伸展刺激15分およびOAによりミオシンATPase活性は抑制された。以上の結果より、伸展刺激によるMLCの複数部位のリン酸化にRho/Rhoキナーゼ系を介するホスファターゼタイプ1およびタイプ2Aの抑制に伴う見かけ上活性化されたMLCKとPKCαが関与する可能性が示唆された。
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