研究概要 |
本研究課題では,構造を維持したラット大脳軟膜の細動脈標本を作製して,内皮細胞からの液性因子または電気的細胞間情報伝達を介した平滑筋細胞の制御を調べることを試みた.1.隣接する内皮細胞と平滑筋の両方に同時にdouble perforated patch-clamp法を適用した.電位固定下に内皮細胞へ過分極パルスを与えるとその電極を通る内向き電流が得られたが,同時に平滑筋細胞を測定する電極には外向きの電流(ギャップ電流)が惹起された.ギャップ電流はα-glycyrrhetinic acid(α-GA)で抑制された.この結果から,内皮細胞と隣接する平滑筋細胞に電気的な連絡があることが明らかになった.2.液性因子の役割を調べるために,α-GAでギャップ電流を抑制した条件下で,平滑筋細胞で見られるエンドセリン-1(ET-1)誘発の周期性Ca^<2+>活性化Cl^-電流(I_<Cl(Ca)>)におけるbradykininの作用を調べた.その結果、(I_<Cl(Ca)>)のbradykininによる抑制作用は細胞間隙に放出される一酸化窒素を介することが示された.3.隣接する2つの平滑筋細胞間にギャップ結合の存在が証明された.細胞間に流れる電流は時間依存的に減衰した.この現象は電位依存性であり正負の細胞間電位差に関して対称性を有した.一方,内皮細胞と平滑筋細胞間のギャップ電流減衰は非対称的な電位依存性を有した.マクロ電流をもとにして,電極による直列抵抗を考慮し,さらに隣接する細胞との間にギャップ抵抗が並列結合していると仮定することにより,細胞間のギャップ・コンダクタンスを推定できた.さらに,適量のギャップ結合阻害薬を潅流する条件下で,単一コンダクタンスを計算することができた.以上の成果によって、微小循環の組織構築を最小限維持した形で細胞間の多様なコミュニケーションを解析することが可能になった.
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